物流企業はどのように一次調査を活用しているのでしょうか?
市場調査
日本の国土交通省のデータによると、2023年度の国内貨物輸送による収入は約16.4兆円に上りました。しかし、物流企業の業績に最も直接的な影響を与える意思決定―どの荷主をターゲットにするか、どの輸送ルートを構築するか、新サービスの価格をどう設定するかといった判断――は、統計データだけでは決して得られない情報、すなわち「荷主、荷受人、そして現場のオペレーションチームが実際に何を求めているか」という視点が欠落したまま、日常的に行われています。
二次調査は、貨物量や輸送モードの傾向を把握するのには役立ちますが、それだけでは不十分です。例えば、なぜある荷主が輸送業者を切り替えたのか、なぜラストワンマイル サービスがコスト試算通りの成果を上げられなかったのか、なぜ新しい拠点の取扱量が予測を下回ったのかといった理由は、二次調査からは読み取れません。こうした疑問を解明するには直接的な調査が必要であり、そこで物流企業にとって「一次市場調査」が実務上の重要な役割を果たすことになるのです。
御社で一次調査の仕組みについてまだ詳しくない場合は、当社のガイド『一次市場調査とは?』で、その基礎知識と費用体系について解説しています。物流事業者にとってより現実的な問題は、このシステムがどのような意思決定の支援に最も適しているかという点であります。
物流企業にとって、一次調査はどのような問いに答えをもたらすのでしょうか?
独自調査は、物流企業が単なる市場統計や業務上のベンチマークの枠を超え、顧客、荷主、流通業者、サプライチェーンのステークホルダーが実際にどのように意思決定を行っているのかを理解する助けとなります。

市場関係者から直接フィードバックを収集することで、サプライヤーの選定、サービスの採用、価格の受容、そして長期的な物流パートナーシップの形成に影響を与える要因を明らかにすることができます。
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ビジネス上の意思決定領域 |
一次調査によって明らかになる重要な問い |
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ルートおよび回廊の計画 |
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デポ・施設の立地選定 |
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ラストワンマイル・サービスの設計 |
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技術の導入 |
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新規荷主セグメントへの参入 |
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価格設定モデルの検証 |
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ソース: SDKI Analytics分析
「一次市場調査と二次市場調査の違い」で論じたように、これら二つの手法は順を追って実施するのが最も効果的です。具体的には、まず二次調査で機会を特定し、次いで資金を投じる前に一次調査を行って、事業上の仮説を検証するという手順です。
物流企業は実務においてどのように一次調査を活用しているか
1. ルートおよびネットワーク計画
デポのリース、車両構成、パートナー契約といったルートインフラに関する決定は、5-10年にわたる長期契約であり、容易に解除することはできません。新たな地域輸送ルートを検討する物流企業は、国土交通省が公表する統計データから貨物量データを取得できます。しかし、これらの統計データからは、当該輸送ルートの荷主が既存運送業者から乗り換える前に必要とする具体的なサービスレベルの基準値を知ることはできません。
対象となる荷主企業の物流マネージャーや調達責任者への構造化インタビューを実施することで、乗り換えの決定要因が価格重視なのか、信頼性重視なのか、あるいは顧客関係重視なのかを直接的に把握できます。この違いによって、新規参入企業が料金、サービス密度、あるいは顧客管理の深さのいずれで競争するのかが決まります。
2. 営業活動開始前に荷主の行動特性を把握する
食品メーカー、医薬品卸売業者、自動車部品サプライヤーといった新たな産業分野をターゲットに据える際、物流企業は通常、まずその業界の規模に関するデータを確認します。こうしたデータは市場の存在を裏付けるものではありますが、当該組織内で調達の意思決定がどのように行われるか、誰がサプライヤーとの関係を主導しているか、あるいは取引開始に向けた審査プロセスにどの程度の期間を要するかといった点までは明らかにしません。
誤った前提に基づいて営業リソースを投入してしまう事態を避けるためには、ターゲット企業の物流・調達担当者を対象とした詳細なインタビューなどの定性調査手法を用い、こうした疑問点を事前に解明しておく必要があります。
3. 特殊貨物およびコールドチェーン貨物向けのサービス設計
コールドチェーン、医薬品配送、生鮮食品の物流においては、顧客や地域によって求められるサービスレベルが異なります。温度管理の許容範囲、文書作成の手順、配送時間帯への要望といった要件は標準化されておらず、誰でも参照できる形で公開されているわけでもありません。特に日本では、地域ごとの配送慣行にばらつきがあり、国レベルの二次データだけではそうした実態が見えにくくなっています。
そのため、こうした特殊なサービスを設計する物流企業にとっては、サービス開始前に正確な仕様を策定する上で、見込み顧客の業務担当者や品質管理責任者を対象としたフォーカスグループ調査や構造化インタビューを行うことが、最も確実な方法となります。
4. 技術導入および車両フリートへの投資判断
自動化倉庫、配送ルート最適化プラットフォーム、EV(電気自動車)フリートの導入には多額の資本を要します。二次データは導入率のベンチマークや、標準的な前提条件に基づく平均的なユニットコスト(1単位あたりのコスト)を提示するものではありますが、実際の技術導入において各企業の拠点インフラ、ドライバーの人員体制、業務上の企業文化などが課す固有の制約までは考慮できません。
日本の物流業界は、この点において複雑な状況にあります。2024年4月よりトラックドライバーの時間外労働規制が適用され、年間残業時間が960時間に制限されたことで、業界全体で配送ルートや輸送能力の再構築を余儀なくされています。荷主側の配送に対する期待がどのように変化したか(あるいは変化していないか)を把握するには、業界平均のデータではなく、直接的なヒアリングが必要です。これは、製造業が新たな業務モデルを検討する際に直面する状況と同様です。すなわち、公表されているベンチマークと実際の業務現場の現実との間にある乖離は、直接的な調査を通じて初めて明らかになるものなのです。
5. 新規サービスラインの価格検証
物流会社が医薬品専用コールドチェーンサービス、中小企業向け当日配送サービス、地域クロスドックソリューションといった新規サービスを開始する際、社内価格モデルはコスト構造と競合他社のベンチマークに基づいて構築されます。しかし、これらのモデルでは、サービスが解決する課題に対する荷主の実際の支払意思額が考慮されていません。
定性的手法と定量的手法を組み合わせた、潜在的な荷主アカウントに対する一次調査を実施することで、価格決定前にこの点を明らかにすることができます。
日本の物流業界の事例紹介
ケーススタディ 1: 運転時間制限に適応する東北地方の航空会社
2024年4月の労働基準法改正により、トラック運転手の時間外労働時間が年間960時間に制限されました。これは業界内で「2024年問題」として広く知られています。東北地方の運送事業者にとって、この規制は直ちに配送ルートの処理能力や配送頻度の維持に対する圧力となりました。貨物量は減少しなかったものの、それに対応可能な運転手の労働時間は減少したため、荷主の需要と運送事業者の供給能力との間の乖離が、事業運営上の極めて重要な課題となったのです。
宮城、岩手、山形、秋田の各県で事業を展開するある地域運送事業者は、新たな時間外労働規制への対応として、配送ルートの再編や配送頻度の削減を計画していました。社内での計画策定にあたっては、既存の貨物量データや運転手の勤務シフト予測が用いられました。経営陣は、運転手不足の問題が業界全体で広く認識されていることを踏まえ、事前に通知さえすれば、地域の小規模・中堅荷主も配送頻度の削減を受け入れてくれるだろうと想定していました。
一次調査で明らかになったこと:
SDKIは、宮城県と岩手県の中小食品加工業者、農産物流通業者、工業部品サプライヤーの物流・オペレーションマネージャー16名を対象に構造化インタビューを実施しました。受容の仮定は一律には成立しませんでした。
回答者16名のうち9名は、自社の下流顧客との供給契約を再交渉しなければ、配送頻度の減少に対応できないと回答し、そのうち6名はまだ再交渉に着手していませんでした。4名は、運送業者が配送スケジュールを調整すれば、複数の荷主からの貨物をまとめて配送頻度を維持し、ドライバーの人件費を削減できる統合配送を、運用上許容可能な代替案として挙げました。また、インタビューでは、運送業者の輸送量データには表れていないセグメント間の乖離も明らかになりました。食品加工業者や農業流通業者は、在庫制約や腐敗性のため、工業部品サプライヤーよりも配送頻度の減少に対する許容度が著しく低いという結果でしました。
成果:
当該運送会社は、荷主のタイプに応じて再編策を区分けして実施しました。産業関連の顧客に対しては、事前の通知を行った上で、計画通りの配送頻度調整を行いました。食品・農産物輸送業者は、配送スケジュールを調整した混載輸送オプションを利用できるようになりました。この混載プログラムは、当初4社の中小企業(SME)の参加を得て開始されました。こうした区分けしたアプローチをとることで、配送頻度の変更による影響を吸収しにくいカテゴリーの荷主において、顧客離れのリスクを低減することができました。
調査費用:740,000円(インタビュー16件、回答者のリクルーティング、謝礼、分析、最終報告書作成を含む)
ソース:SDKI Analyticsによる一次調査案件(2025年)
日本の貨物輸送市場の変遷が一次調査にもたらすもの
独自調査が最も大きな価値をもたらす物流上の意思決定は、時系列的に均等に発生するわけではありません。それらは構造的な変化の局面、すなわち市場の動きが二次データの捕捉能力を超えて加速し、公表されているベンチマークと実際の業務実態との乖離が最大化するような時期に集中します。

日本の物流業界は現在、まさにそうした局面の只中にあり、3つの変革が重なり合う状況に直面しています。
- ドライバーの残業規制強化への対応は、決して静かに進んだわけではありません。運送会社は配送ルートの再構築を迫られ、物流要件を見直していなかった荷主は、既存の委託先ではその要件を満たせなくなる事態に直面しました。前述の事例(荷主の受容度が物流セグメントによって異なったケース)は、決して例外的なものではありません。これは、業務上の変更が荷主との事前の対話に先行してしまった場合に起こる典型的な事象です。荷主に意向を確認した運送会社は解決策を見出しましたが、確認せずに荷主の受容を前提として動いた運送会社は、取引上の不利益を被ることになりました。
- 脱炭素化の動きが、第二の圧力として加わっています。日本の2030年に向けた排出削減目標は、EV(電気自動車)車両の導入、モーダルシフトの要請、炭素排出量の開示義務といった要素を物流調達の現場に持ち込んでいますが、その進展速度や内容はセグメントによって異なります。例えば、医薬品卸売業者が3PLに求める炭素関連の文書要件は、東北の食品加工業者が求めるものや、大手自動車部品サプライヤーが課す要件とは全く異なります。これらはいずれも標準化されておらず、市場がまだ選好を形成している段階にあるため、公表されている荷主調査などには反映されていません。競合他社に先駆けてこの知見を獲得するには、荷主への直接的なヒアリングを行う以外に方法はありません。
- 地方における高齢化の進行が、第三の側面を形成しています。秋田県、島根県、高知県、和歌山県のように高齢化率の高い地域では、都市部の基準(ベンチマーク)では捉えきれない「ラストワンマイル配送」の力学が働いています。配送頻度への要望、受取人の在宅時間帯、そして代替的な配送モデルの採算性といった要素は、現地での直接的な調査を通じて初めて理解できるものです。二次データ(既存の統計データなど)では、あるサービスが成立するか否かを決定づける地域ごとの特性が平均化されてしまい、見落とされてしまうからです。
ターゲットとなる荷主の真のニーズを理解している物流企業は、公表されている平均データに基づいて事業を行う企業に対し、競争上の優位性を築くことができます。こうした機会を切り開く鍵となるのが、独自調査です。独自調査を実施すべきか否かを判断するためのより広範な枠組みについては、「企業はいつ独自市場調査を活用すべきか?」をご覧ください。
よくある質問
物流企業にとって最適な一次調査の手法は何ですか?
荷主企業の物流マネージャー、調達責任者、および受取人(荷受人)側の業務担当チームへのデプスインタビューが最も一般的に用いられる手法です。フォーカスグループ ディスカッションは、サービス設計や技術導入に関する調査に有効です。構造化されたアンケート調査は、より多くのサンプルを対象に荷主の選好を定量化する必要がある場合に使用されます。
物流分野の一次調査にはどのくらいの期間がかかりますか?
荷主へのインタビューを12-16件実施するような集中的なプログラムの場合、通常、プロジェクトの設計から最終報告書の作成まで4-8週間を要します。複数の地域を対象とする大規模なプログラムや、複数の調査手法を組み合わせる場合は、さらに時間がかかります。プロジェクトの種類ごとの詳細な内訳を含む「一次市場調査の所要期間」に関する記事で、この点について詳しく解説しています。
小規模な物流事業者でも一次調査のメリットを享受できますか?
はい、可能です!調査プログラムは、意思決定の範囲に合わせて規模を調整できます。例えば、特定の輸送ルート(コリドー)を対象に荷主10社へのインタビューを行う調査であれば、600,000円未満で設計することも可能です。費用は企業の規模ではなく、回答者数、リクルーティング(対象者選定・依頼)の難易度、分析の深さによって決まります。
物流技術の導入前に一次調査を行うことは有益ですか?
物流における技術導入の意思決定においては、導入前にデポ(拠点)管理者、ルート計画担当者、ドライバーへのインタビューを行うことが常に有益です。充電インフラの不足、航続距離の要件、現場スタッフの受容度といった業務上の制約事項は、構造化されたインタビューを通じて初めて明らかになることが多いためです。これらは、ベンダーの導入事例や業界のベンチマークデータにはほとんど記載されません。
一次調査は、日本の2024年の運転手不足問題にどのように対処するのか?
2024年の時間外労働規制の導入により、運送事業者の輸送能力低下と、荷主が求めるサービス水準との間にギャップが生じています。荷主企業への一次調査を行うことで、配送頻度の変更を受け入れられる顧客はどこか、配送の集約(統合)などの代替案が必要な顧客はどこか、あるいはサービス水準の変化によって新たな運送業者への切り替えを検討する顧客はどこか、といった点を把握できます。これにより、ルート再編の決定が顧客の喪失につながる事態を未然に防ぐことが可能になります。


